被災地の珠洲から世界を目指すウエイトリフティングクラブ。

能登半島地震で祖母を亡くした選手、自宅が倒壊し車中泊をしながら全国大会で日本一を目指す選手。3か月の時を経て2人の高校生リフター、それぞれのリスタートです。

大きくヒビ割れたグラウンドの片隅にある一室で活動していたのは、珠洲市の飯田高校ウエイトリフティング部です。

浅田久美監督「飯田高校にウエイトリフティング部ができた当時は、ここが練習場だったそうです。いまは野球部の更衣室とか物を置くような場所になっているそうなんですけど」

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普段使っていた練習場は災害支援用のスペースだったため、使用できない状態が続いていました。

浅田久美監督「あそこにプレハブがあるんですけど、この次にあそこが練習場だった。ところが、地震で裏の壁とか抜けてしまっているのでアウト」

「いまから練習を始めます、気をつけ、礼!お願いします!」

指導にあたる浅田久美さん。

アテネと北京の両オリンピックで日本代表の監督も務めた、女子ウエイトリフティング界のレジェンドです。

結婚を機に珠洲で暮らすようになり、2012年珠洲から世界を目指して「SUZUドリームクラブ」を立ち上げました。

飯田高校ウエイトリフティング部・橋本侑大さん(2年)「もともと小学生の時にやっていて、そこから高校も続けようかなと思って」

ウエイトリフティング部2年の橋本侑大さん。元日の地震で自宅が倒壊し、現在はビニールハウスで生活しています。

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橋本侑大さん「いま母と叔母と3人で暮らしています。電気は引っ張ることができたので割と普段の生活に近づけてはいるんですけどゆっくりできないというか…」

去年の年末の合宿で、記録を大きく伸ばして帰ってきた橋本さん。

浅田久美監督「24年は行くぞ!っていうかたちでいた。ところが1日にあんなことがあって、1か月ちょっと全く練習ができなかった」


元日に、橋本さんは最愛の祖母・みち子さんを地震で亡くしました。

橋本侑大さん「ショックがでかすぎて、亡くなった感じがしないというかいまだに信じられない」

「ハッピーバースデートゥユー」「おめでとうございます」「ありがとうございます、また歳いきました」

1月1日は、みち子さんの誕生日。毎年、家族でお祝いを欠かしませんでした。

「今年は何をしたいですか?」「何をしたいかというのは…健康でいられれば一番いい。イェイ」

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みち子さんは、誕生会のあと初詣に出かけ、お下がりをもって訪ねた親戚の家で被災。住宅の下敷きになり命を落としました。

橋本侑大さん「本当になんでもやる人で、スーパーおばあちゃんというかすごく働き者」

今思えば、ことしはいつもと違う正月だったと橋本さんは振り返ります。

橋本侑大さん「お年玉の金額がでかかったり、母がいつもお雑煮作ってるらしいんですけど、今年はおばあちゃんが朝から作っていたみたいで、LINEでお餅何個食べる?とかお雑煮食べる?とかすごく積極的に言ってきたので、いつもと違うなぁと思って過ごしてました。それがばあちゃんの最後の料理になりました」
浅田久美監督「2月入って10日くらい経ってからかな。『侑大よ、いつまでも落ち込んでてもばぁちゃん喜ばんぞ!』と声かけして、練習そろそろ始めないか?って言ったら、『僕もそろそろそんなことは思ってました』くらいの感じで来たのでよしっと思って」

いつも応援してくれていたおばあちゃんのためにも…橋本さんは再び前を向き始めました。

橋本侑大さん「被災してから、いろいろ支援してくれている方に応援されたので、ばあちゃんにも喜んでもらえるように頑張りたいなと思います」

浅田久美監督「ウエイトにも偏差値というものがあるとすれば、そのウエイト偏差値はものすごく高い」

そしてもう1人、車中泊をしながらトレーニングを続けた山下由起さんが3月、高校日本一へ挑みました。

飯田高校ウエイトリフティング部・山下由起さん(3年)「記録が伸びていく楽しさと、あがった時の達成感がある」

飯田高校ウエイトリフティング部3年の山下由起さん。

6歳からバーベルに触れ去年の全国選抜大会と、インターハイ、国体の高校三冠に輝いた期待のエースです。

浅田久美監督「ウエイトにも偏差値というものがあるとすれば、そのウエイト偏差値はものすごく高い。おそらく高校トップと言っても過言じゃないくらい、ウエイトに関してのいろいろな知識は持っている」

元日の地震で被災した山下さんの自宅。家族は数日間、車中泊を強いられました。

その後も日中に家の片付けをしながら、夜は親の会社で寝泊まりする生活がおよそ1か月続きました。

山下由起さん「この状況になってしまったからにはもう仕方ない。能登の中高生では部活をやりたくてもできない子とかまだいると思うので、どんな環境であろうとこうやって準備してくれる方々がいて練習できるのは、自分は恵まれていると思う」


3月25日、高校4冠目を目指し挑んだ金沢での全国大会。

山下由起さん「コンディションはどう?」「いままでで一番いい」「目指す記録は?」「スナッチが130キロ以上、クリーン&ジャークが160キロ以上」

ウエイトリフティングには2つの種目があります。

バーベルを一気に頭上へ引き上げる「スナッチ」

そして、バーベルを一旦胸まで引き上げ、頭上に差し上げる「クリーン&ジャーク」

これらの試技を3回ずつ行い、2種目合計の成功した重量で順位を競います。

母・裕子さん「練習は本格的に1月の下旬から少しずつというところなので。ケガしないで普段の練習の成果をいらないことも考えず無になって悔いのないように試技してもらえれば」

89キロ級に出場した山下さん。

スナッチの第1試技123キロはなんなく成功!

続く第2試技127キロも危なげなくクリア。

そして迎えた最終試技。

場内アナウンス「重量増加131キロ。重量131キロ10番・山下選手連続試技です」

スナッチの自己ベスト128キロを3キロ上回る重さに挑みました。

山下由起さん「能登の人に自分たちも頑張ろうって思えるような活躍をすることが目標です」

スナッチの第3試技は惜しくも成功とはなりませんでした。

それでも…

クリーン&ジャークで150キロを記録し、トータル277キロ。見事、大会連覇と高校4冠を達成しました。

山下由起さん「(スナッチの)自己新記録はどんな気持ちでプラットに立った?」「とりたいっていうよりも、とらんとダメな重量やと思いながらいったんですけど失敗してしまいました。ちょっと情けない結果なんですけど少しでも(被災地の)力になれたかなと思います。」

地震の困難を乗り越え 山下由起さんは見事高校日本一に


困難を乗り越え羽ばたこうとする若い力。

更なる飛躍に期待です。